「私はタイから来た鯛の【たべたい】と申します」
突然やってきた鯛がそう言った。
なんと目出度いことだ。
丁度魚が食べたかったところだ。
俺は鯛の【たべたい】を食べたくなった。
「おまえが食いたい。食っていい?」と俺は言った。
「慶事に食べられるのが鯛の本懐。どうぞ。して、どんな慶事がありましたかな?」
考えてみると、奥さんには逃げられ、パチンコで負けて、宝くじは外れた。
何も良いことは無かった。
「慶事がないなら私は帰ります」と鯛は言った。
「待った! 俺は職業が刑事!」
「おお! そういうことなら牛乳とアンパンを差し上げます。ではさようなら」
鯛はタイに帰って行った。
「なんてことですたい!」
(遠野秋彦・作 ©2023 TOHNO, Akihiko)